2025/11/27 08:04
「ブタコヤブックスにはどんな本が並んでいるんですか?」と聞かれることがよくある。
「教育、子育て、絵本、ZINE…」
と続けたあと、必ず
「エッセイです。」
と答えている。

エッセイをお店で扱いたい理由がある。
今から7、8年前であろうか。子育てと仕事を両立させるために、私たち夫婦が一番悩んでいた頃である。抱えるものの重さに身動きが取れず、うまく深呼吸ができなくなっていった。小さな我が子を育てるには大きなパワーを必要とした。体力も精神力も徐々になくなっていき、社会との接点も小さくなりがちであった。私なんかはまだ出勤していたから随分マシな方である。育休をとってくれていた妻の負担はもっと大きいものであった。

こんなときに重要になってくるのは「現実逃避」である。
小さい我が子を抱えながら、森や、海や、大都会に逃げるのは簡単なことではなかった。小さい我が子をどこかに預けて、森や、海や、大都会に逃げることも、簡単なことではなかった。
自宅や地域にどうしても留まることになる。重たい空気が滞留する。この世で最も愛おしい者と一緒に、非常に狭い空間の中にいることしかできない辛さ。この辛い空気や閉塞感から脱出したいと願った結果、自然と本に手が伸びた。

いろんなジャンルの本を読んだ。現実逃避には小説の方が向いているような気がするが、タスクに追われる日々の間ではどうしても細切れの読書時間になってしまい、没頭を必要とする小説は私にはあまり向いていなかった。
そこで、エッセイを読み漁ることになった。作品のひとつひとつが短いという特徴も、この環境の読書にはぴったりな条件であった。
そして何より、ページを開けばリアルな一人の人間がそこにいた。空想世界ではない、この世を生きる人間の目線が綴られていた。著者の独自の目線で綴られる、生の人間の気づきや苦しみや喜びに触れると、狭い世界で生かざるを得ない環境の私たちは決して孤独ではないように思え、力が湧いてきたのだ。
そんな、エッセイを愛するブタコヤブックスだからこそ、応援したい本が一冊ある。
『随風02』。
随筆/エッセイが主軸の文芸誌の第2号である。
今回のテーマは「好奇心」。
執筆メンバーも実に豪華で、既に著書を持つ方ばかりだ。だからこそ「自分と合う書き手」を見つける窓口としての一冊にもなり得るのではないか。
また、ZINEやnoteで文章を書く人にとっても、「読む」ことと同時に「いつかは『随風』に自分の文章を載せたい」と思える文芸誌なのではないかと思う。そんな読み方をしたって、何の問題もない。

むしろそんな存在は、書く人にとっては大きな力になるだろう。誰かの書いたエッセイに触れることで、自分の中の言葉を掘り起こしてみたくなる。そんな循環を生み出す文芸誌だと私は思う。
エッセイを読む人が増え、書く人も増えていく。そんな流れの中で、読者と書き手をつなぐ橋渡し役になれたら、ブタコヤブックスは嬉しく思う。エッセイが誰かの手に届き、誰かの心を動かし、また次の言葉が生まれていく。良い。なんか良いぞ。すてきだぞ。

そんな思いを込めて、『随風02』を、当店ではおすすめしていく。
ぜひこの機会に手にとっていただければと思います。
